経営に役立つコラム

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2022.10.04

売掛債権が回収できないときの税務上の取扱い(法人税基本通達 9-6-1)

コロナ禍に加え、最近の円安、物価高が企業の事業継続に影を落とし、会社倒産などの事象がお客様のお取引先に生じています。

今回は、未入金の売掛債権が残っているのにその得意先が倒産した、あるいは長期に渡り回収できないでいる、などの時にこれを損失とするための要件などについてご案内いたします。

貸倒損失とは

債権が回収できずに生じる損失を貸倒損失と言います。

将来のこの貸倒損失に備えるために、あらかじめ一部毎年経費(損金)にできているのが貸倒引当金です。
皆様の貸借対照表にもこの名称があるかと思います。

こちらは一般的な中小企業では、法人税法上一定の額まであらかじめ積み立てて経費にしてよいというものになり、その計上方法は業種により利率が決まっていたりと、この計上をめぐって税務調査などで論点になることはほぼありません。しかし、実際の貸倒損失、特にまだ得意先が営業を継続しているときなどが問題となります。

貸倒損失が認められる3つの要件

法人税基本通達においては、貸倒損失が認められるのは下記の3通りとなっております。

9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ
9-6-2 回収不能の金銭債権の貸倒れ
9-6-3 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ

今回はこのうち、9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れについて解説したいと思います。

9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ

9―6―1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1)更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2)特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

一般的には「法的な貸倒れ」と呼ばれている

9-6-1は一般的に「法的な貸倒れ」と呼ばれており、会社更生法・民事再生法などに基づく計画認可の決定だけでなく、債権者集会などの私的な合意も対象となっております。会社更生法などの法律を背景に貸倒れた場合はその事実の証明ができればよいので問題はなかなか生じないものと考えますが、債権者集会や9-6-1(4)で記載する債務免除の方法は、ともすれば恣意的なものになりやすいため税務上も貸倒損失が認められるためには、厳格に対処しなければならないものと考えられます。

特に債務免除は債権者の意思のみで通知が可能であるため、その弁済を受けることができないということを単に長期に入金がされないというだけで判断してはならず、所在地の状況、経営者の所在、債務者の決算書、事業計画、担保物の有無など客観的に弁済できないと判断できる情報が求められます。万が一、そういった説明ができない場合には債務者へ贈与があったものとして取り扱われ債権者に寄付金課税がなされる可能性があります。

なお、債務免除は後述する法人税基本通達9-6-2と異なり一部であっても認められますが、通達にも記載がある通り「債務超過の状態が相当期間継続し」「書面により明らかにされた債務免除」である必要があります。

債務超過の状態は単に決算書の状態ではなくいわゆる時価で判断しなければならないと考えます(昔購入した土地などは決算書では非常に安い金額で計上されていたりします)。また「相当期間継続」とあり、具体的に何年と書いていないため一概に何年でよいと言えないところが判断の難しいところで個別事情で判断するしかないのですが、1~2年間は少なくとも回収努力が求められるように考えております。

また「書面により」通知をすることとなります。内容証明郵便であることは必ずしも求められませんが、普通郵便や電子メールより内容の記録が残り立証がしやすいため、内容証明郵便を推奨しますが、同様に通知が証明できようにしておけば足りるものと考えられます。

会計処理について

次に会計処理についてですが、この9-6-1はこういった法律的な債権の切捨てがあった場合、通達の末尾が「損金に算入する」とありますので、決算書での会計処理をせずとも税金計算上での損金が認められているのもポイントです。よって、実際には法律的に貸し倒れて回収できなかったような場合で、あとになってその事実が分かった場合、その年度で損金にすることを求めることも可能です。一方、損金に強制的にできるわけですので、会社が任意にその後の年度で貸倒処理をした場合や、課税当局の職権などでも、更正できる期間を過ぎてしまうと取り返すことができなくなる可能性がありますので注意が必要です。

破産は(1)(2)に含まれていない

最後に、9-6-1は法律的な貸倒れの規定ではありますが、実は破産は(1)(2)に含まれておりません。ですが、破産による債権回収不能が最も実務で発生する可能性の高いものかと思われます。(1)(2)に含まれないということは、破産は(4)の債務免除の対応をとり法的に確定させる(ただし、前述の贈与とならないか確認は必要です)か、次回ご説明する9-6-2での取扱いを行って会計処理を行うことが必要と言われておりますが、ここは論点もあるため、次回解説いたします。

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木村行宏

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G.S.ブレインズ税理士法人 代表社員税理士

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