経営に役立つコラム

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2022.12.06

売掛債権が回収できないときの税務上の取扱い(法人税基本通達 9-6-3)

ここまでの2回は法人税基本通達9-6-1のいわゆる法的な貸倒れ、同9-6-2「回収不能の金銭債権の貸倒れ」についてご案内いたしました。

今回は、残る同9-6-3「一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ」についてご案内します。
この方法は対外的な手続きや債務者の状況は問わず、債権者側の判断で対応できるので、最も採用しやすいのですが、要件自体も多く、その判断が難しい点があります。

一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ

9―6―3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9―6―3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

債券の種類に関する注意点

まずその債権の種類について、注意が必要です。

ここまで解説した9-6-1及び9-6-2は債権であれば、売掛債権でもそうでない債権でも適用が可能でしたが、この9-6-3は通常の営業サイクルで生じた債権に限定されており、具体的には、「売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権」としております。

したがって、「貸付金その他これに準ずる債権」は対象とならないため、注意が必要です。

貸倒損失の経理方法に関する注意点

次に、その貸倒損失の経理方法にも注意点があり「備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたとき」とされております。この一文には「備忘価額を控除した残額」を「損金経理(貸倒損失として経費処理)」の2要件が含まれております。

次に、個別の状態に応じて、2通りの要件を掲げています。

(1)では、取引停止があってから1年以上が経過した場合に貸倒を認めている

(1)では、取引停止があってから1年以上が経過した場合に貸倒を認めております。

この取引停止について、注意したいのは、①経常的に発生した取引であったこと②最後の入金があったときが取引停止の時と判断すること、があげられます。

文末の(注)に「不動産取引のように」たまたま取引を行ったような債務者に対する債権はこれに該当しないとありますが、一人の取引先に単発を想定して「不動産取引」を行ったような場合には対象とならないことが示されております。

つまり、例えば個人の取引先に住宅を販売するような場合、その個人に継続的に住宅を販売することは想定できないため、これを適用することはできないこととなります。裏を返せば、不動産会社のように継続的な取引を前提にしている取引であれば、「たまたま行った取引ではない」ことになるので、この規定の適用は可能と考えます。

ただし、「債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合」の取引停止について規定しているので、結局のところ何かしらの債務者の状況を把握する必要はあるように思います。

また、よくこの規定を検討するときに見落としてしまうのが最後の入金がいつであったか、という点です。この規定を適用しようとするような相手の場合、入金がぴたりととまるケースもありますが、間隔をあけて入金されていることも多く、それゆえ、取引停止の時期が実際の商品販売・役務提供時期と大きくずれてしまうことがありますので、注意が必要です。

この取引停止について「1年以上経過」した場合に認められている規定ですが、「1年以上」ということは、2年でも3年でもよいのか、という疑問が生じます。9-6-1及び9-6-2は具体的に損金算入時期が定められているにも関わらず、9-6-3ではその記述はありません。

もし1年経過したタイミングしか認められないのであれば「1年経過した日を含む事業年度」などその事業年度を具体的に来ているすべきところで、「1年以上」としているからには、基本的に2年・3年でも認められるものと考えます。しかし、欠損金の繰越期間の恣意的な延長を意図したり、利益操作を目的とするような場合等、課税上の弊害があると認められる場合には、損金として認められないこともあると考えます。

(2)においては、少額な債権取立を行う場合を想定して規定がされている

(2)においては、少額な債権取立を行う場合を想定して規定がされております。

少額な債権を取り立てるために、例えば郵便等で催促をしても弁済が受けられない時、債権額よりも大きな取立費用を支出してまで果たして回収を図るのか、という実務に配慮がされた規定になっています。

(1)が「継続的な取引」であること及び債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため取引停止に至ったことが適用の要件とされていますが、(2)の取扱いにおいては、それらの要件は設けられておらず単発取引となり、また、個々の顧客について、その資産状況、支払能力等が悪化したかどうかを確認できないとしても、適用が可能と解されます。

債権残高の管理には十分な留意を!

3回にわたり、貸倒損失が損金と認められる法人税基本通達を解説して参りましたが、それぞれの要件は非常に厳しくなっていると考えられます。債権の回収が滞っているにも関わらず、検討・処理を怠ったため損金にできなかった、ということがないよう、債権残高の管理には十分な留意が求められます。

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木村行宏

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G.S.ブレインズ税理士法人 代表社員税理士

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