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Column

2022.10.24

法人の税務調査はどこまで見るのか?

法人設立後、初めて税務調査官から電話があるとドキドキしますよね。
どこまで見られるのだろうか?
税金はいくらくらいとられてしまうのだろうか?心配される方も多いのではないでしょうか?
今回は、法人の税務調査はどこまで見るのかを解説していきます

法人税調査の概要

法人の税務調査は、税務署の法人税部門が行うものと課税部の資料調査課(国税内部では略して「リョウチョウ:料調」と呼ばれている。)が行う税務調査及び調査部が行うものに大別されます。

料調が行う調査は、税務署が管轄する法人(資本金1億円未満)に限られますので、大規模法人は調査部が調査し、それ以外の法人は税務署及び局の料調が調査するという区分もできます。

資本金1億円を境に管轄する部署が変わるということを憶えておきましょう。

税務署が行う法人税等の調査

⑴税務調査の対象税目

税務署の法人税部門が行う調査の税目は多岐に渡ります。法人税はもちろんのこと、消費税及び源泉所得税が主要な調査税目になります。これに加えて、印紙税なども調査の対象になります。

これらの税目をまとめて調査する方法を同時調査といい、特定の税目のみを対象とした税務調査である単独調査と区分されています。

(※単独調査…例えば、源泉所得税部門が源泉所得税のみの調査を行うものを源泉単独調査といいます。決して調査官が一人で調査するから単独調査ではありません。)

⑵調査選定と準備調査

法人課税部門の統括官は、納税者から提出された法人税確定申告書や消費税確定申告書、源泉所得税の納付状況及び税務署内に蓄積された資料情報や過去の調査記録などから調査対象法人を選定し、調査官に調査指令を行います。

調査指令を受けた調査官は、準備調査を始めることになります。準備調査では、3期もしくは5期分の申告書に添付されている財務諸表等を計数分析や業種特有の慣行から見ての申告内容の適否の検討、税務署が収集した蓄積資料情報と勘定科目との整合性の検討など、定量的分析を行うほか、マスコミ情報や経済状況等の分析、過去の税務調査における調査記録などの定性的分析行い、調査法人に対する重点調査項目や問題項目等を抽出していきます。

税務調査では、調査対象の選定が最も重要と言われています。何も問題のない法人へ調査に行っても調査法人に修正申告を求めることはできません。調査官はもちろんのこと、上司である統括官にとっても、増差所得(調査により増加した所得金額のことをこう呼びます。税務署では「ゾウサ(増差)」と言っています。)の金額の多寡は成績に直結するため、最もこだわりを見せるところです。

そして、調査選定の次にある準備調査は、どこに重点を置いて調査を進めるのかを見定める作業になりますので、調査官の能力が問われる作業になります。

⑶実地調査

①会社概況の聴取

準備調査が終了したら、法人の事務所等への臨場です。実地に調査へ赴くところから、税務署では実地調査といわれています。

会社に臨場した調査官は、まず会社の概況を聴取し始めます。概況聴取の内容を具体的に書きますと、次のような項目になります。

【会社概況の聴取事項】
①会社の経歴、業績の推移
②行っている業務の業態・店舗もしくは事業所数とその変遷、営業の範囲
③役員の状況(特に代表者やその親族の就任・退任の状況及び担当事業等)
④売上先、仕入先や外注・委託先の状況(名称、取引内容、締め日、決済条件など)
⑤業界特有の商慣習など
⑥従業員の状況(採用状況、人事関係書類の保存、勤怠の管理状況など)
⑦国内・海外の状況(名称、所在地、業務内容、資本関係や出向者の有無など)
⑧代表者の経営方針や経営に対する姿勢など
⑨資金繰りの状況
⑩現状の経営分析及び事業計画や最近のトピックス(例えば、設備投資など)
⑪帳簿組織、固定資産等の管理状況、内部統制の状況
⑫社内規定(経理規定、福利厚生規定、就業規則など)の概要
⑬その他(必要に応じて調査の参考となる事項を質問)

概況聴取が終わると、準備調査で抽出した重点調査項目や聴取で把握した事実関係を踏まえつつ、帳簿調査が始まります。

②帳簿調査

帳簿調査では、見積書、納品書や請求書から売上計上の適否や仕入・外注費等の計上の適否を確認します。

確認の方法は様々ですが、まず、第一に検討するのは、売上除外の有無や架空の仕入、経費の有無です。税務署において調査官が最も評価されるのは不正計算(重加算税が課税されるもの)の把握です。次に増差所得金額の多寡です。そして、税務署が調査する税目(法人税、消費税、源泉所得税、印紙税等)すべてに否認事項があるというのも高い評価を受けます。

例えば、代表者が多額の売上除外をしていて、その売上金を個人的に費消してしまっており、さらに確認した契約書(印紙税の課税文書)に印紙が貼っていないのを把握したという事案を想定すると、

①売上除外で法人税の課税もれを発見し、同時に②消費税の課税もれも把握。
③代表者が売上金を個人的に費消しているので代表者に対する賞与に認定するので源泉所得税の課税もれを把握。
これらは、④いずれも不正計算が課税もれの要因なので重加算税が課税されます。
⑤さらに見た契約書は印紙が貼っていないので過怠を含む3倍の印紙を貼付する

というような課税処理が税務署にとって理想的な展開になります。

この展開で一つ欠けているのが「消費税の固有の非違」です。上記の②は、①の売上除外に課税したことに伴い、消費税が連動して課税される「消費税の連動非違」と呼ばれるものですので、消費税の調査という観点からは、消費税独特の非違、すなわち「消費税の固有の非違」があれば、調査官の評価はさらにアップされます。この「消費税の固有の非違」に重加算税が賦課されるような非違を発見すれば、もっと評価はアップすることになるでしょう。

なお、消費税の固有の非違とは、例えば、給与のような消費税が課税されない取引を外注費に仮装して、消費税の計算における課税仕入れを計上し、消費税の課税額を減少させるなど、法人税の観点からは給与と外注費という経費であり所得金額に影響はない(消費税の追徴課税による所得金額への影響は除く)が、消費税の課税額を減らすためにだけに行っていた不正行為を発見し、課税することをいいます。

③多角的な検討

概況聴取の際に聴取した情報(例えば、売上や仕入・外注費に繋がるメモなどの記録やパソコン内のデータなど)や事務室・工場内にある各種書類等から会計処理に問題はないか、計上されていない取引がないか、など多角的な検討を行います。

例えば、事務室内に備え付けられている取引先の名刺などを把握し、その名刺と取引先を丁寧に突き合わせしたところ、取引のない会社等の名刺が大量に把握されたため、取引先と思われる名刺の相手先に反面調査を行ったところ、正規の納品書、請求書以外に裏の納品書、請求書を使い、多額の売上を除外していたという事例もありました。この事案では、本来の会社名ではなく、架空の会社名で取引を行っていた上、売上だけでなく売上原価も除外して申告額の粗利率(売上総利益率)が不自然にならないように操作をしていました。

優秀な調査官は、帳簿や納品書・請求書をチェックするだけではありません。事務室などに備え付けられている様々な書類、メモ類などを端緒として経理されている数字が正しいものなのかどうかを判断していているので、注意が必要です。

昔から国税の職場では、「現場(事務室や工場など)には増差(ゾウサ)が落ちている」と言われますが、その通りではないかと思います。
(増差とは、国税で使われる用語で、調査により増額した所得金額をいいます。調査後の所得金額と申告した所得金額の差額のことを称して「増差」と言っています。)

また、帳簿調査の過程で調査官は携行している資料せん(他社の調査で収集した取引内容を記した資料や法定の支払調書、国外送金調書など)の内容と計上されている取引の内容を照合し、計上もれ等の有無を確認します。

取引の相手方から直接に収集した資料ですので、法人で計上している取引内容と同じものが計上されているのが当然なのですが、(数ある資料せん等のほんの一部ですが)往々にして内容が異なるものや取引自体が計上されていないなどといった事態になる場合があります。

④現物確認調査

そのほか、必要があれば事務机の中や金庫の中を確認することになります。これを現物確認調査といい、何か不正計算(売上除外や架空仕入・経費など)を会社が行っていると調査官が睨んだ場合、決定的な証拠資料(例えば、売上除外の売上金を入金している簿外の銀行預金通帳、簿外の帳簿、納品書・請求書など)を(現物を)把握するために行います。

調査官が現物確認調査を行おうとした場合には、その必要性と理由を必ず質問するようにしてください。
税務調査だからといって、必要性を提示できない場合には拒否することも出来ると私は考えます。

調査官によっては、闇雲に机や金庫の中を見たがる人がいますが、これは、本末転倒の調査手法であると思います。現物確認を行う必然性があってこそ、他人様の机や金庫の中を見ることができると考えます。

判断が微妙なのはパソコンではないかと思います。業務に必ず必要とするものですので、見せない理由が見つかりづらいのではないでしょうか。但し、業務で使用しているものではないパソコン、すなわち、純然たる個人使用のパソコンの場合は、話が違ってきます。ここでも、現物確認の必然性が問われるものと思います。
しかしながら、税務調査の時にはパソコンは見られるものという姿勢で日頃から整理しておくことが肝要だと思います。

また、パソコンでは、もう一つ重要なものがあります。メールの履歴です。取引先と行ったメールのやり取りの確認は税務調査の必須項目ともいえるほど、頻繁に行われているのが現状です。

帳簿調査がひと通り終わったところで、調査官は疑問点及び不明点はないか自問自答します。

ここで、疑問点等がなければ調査は終了(申告是認)となる訳ですが、大半の税務調査において修正申告を提出(8割から9割程度)することになっていることから、何も非違事項がないと調査官も粘ります。なかなか調査は終わってもらえません。

調査官に疑問点等があると、その解明のため、反面調査や銀行調査を行うことになります。

⑷反面調査と銀行調査

反面調査とは、取引先に臨場して取引内容の確認を行う調査手法です。取引先では取引金額の確認や決済金額の確認、特に公表銀行以外で決済されていないかなどを中心に調査します。

また、銀行調査とは、文字通り、金融機関へ臨場して資金の流れ・資金の使途や溜まり(不正計算の結果の預金残高のこと)の有無を調査することをいいます。

ここでは、他の名義の預金への振替や他行の預金口座への送金などを中心に調査することになります。不正計算による資金が最終的にどこに溜まっているのか、何か簿外資産の取得や個人的な費消をしていないかなどを検討する訳です。

調査結果の説明と調査の終了

税務調査は最終的に調査官から納税者(会社)に対して調査結果の説明を行います。この説明に納税者が納得した場合、納税者は修正申告書を税務署に提出し、同時に納税も済ませることになります。これで調査は終了となるわけです。

もし、調査結果の説明に納税者が納得しない場合には、納税者が修正申告書を税務署に提出することはありませんので、税務署は更正処分を行います。

この更正処分による更正通知に対しては異議申し立てができることになっています。ようは、更正の内容に異議があるわけですので、最終的には国税不服審判所や裁判所に判断を委ねることになります。

まとめ

税務調査を行う調査官も自分自身の成績がかかっているので、必死に会社の間違いを探してきます。調査官が問題事項としている事項について調査官が誤解しないよう、かつ、納得できるような説明をしなければいけません。

これには納税者の真摯な説明とそれをサポートする税理士の税務調査に対する長年の経験を必要とします。

調査官を遣り込める必要なんかありません。理路整然と調査官に説明し、納得させればおのずと税務調査は良い結果を生むものと思っています。

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