経営に役立つコラム

Column

2024.02.19

飲食業における税務調査について

飲食業における税務調査について
会社や個人事業主にとって、税務調査は免れない事のひとつではないでしょうか?
長く続いたコロナ禍も落ち着き、税務署も以前の調査体制に戻りました。そのため、税務調査の事前通知があったとの話しをあちらこちらで聞きます。

なぜ、飲食業の税務調査は突然行われるのか?

平成23年度税制改正において税務調査手続きの法定化がなされ、原則として国税当局が税務調査を行うためには、納税者に対して調査の事前通知を行う必要があります。同改正前においても、調査官は事務運営指針に基づき電話で調査を実施する旨の通知を行っていましたので、通知を行わない、すなわち、無予告で調査を行うという事態は、特殊なケースであるといえます。

では、なぜ、無予告で飲食業に対する税務調査を税務署が行うのかというと、それはひとえに、飲食業が現金商売であるからというのは、容易に想像がつくと思います。

税務署にとって現金商売という業態は、売上が容易に除外できる、ゆえに正確な所得の把握が困難であり、真実の所得を把握するためには、「相手(納税者のことです。)に調査を行うことを悟られてはならない」=「無予告調査の実施」という図式になる訳である。

昨今では、現金での支払以外の決済手段、すなわち、クレジットカード、デビットカードをはじめとして、電子マネーやプリペイドカード、QR/バーコードなどによる決済が増えていることは、ご承知のことと思うが、まだまだ、現金での支払も健在である。

このように現金決済が残っている間は、税務署のマインドが変わることはなく、引き続き無予告の税務調査が続くものと思われる。ようは、税務署はいわゆる「売り脱(売上を除外すること)」を疑っている訳である。

飲食業に対する税務調査の展開

⑴調査対象の選定及び外観調査・内観調査

税務署は、やみくもに税務調査を実施している訳ではありません。申告内容の分析、過去の調査での問題点の分析及び、署内に保存されている各種資料・情報の検討のほか、外観調査、内観調査を実施し、最終的に税務調査に着手するか否かを判断しています。

外観調査とは、飲食店の立地状況・店舗の外観などの確認や客の入退状況の確認及び出前の有無の確認などを行うことをいいます。

内観調査とは、実際に調査官(もしくは同じ調査部門の他の調査官の場合もあります。)が飲食店に客として入店して、店内の配席や客の状況の確認、伝票類の使用状況、従業員の人数及び役割を把握するとともに、メニューの内容の把握や売れ筋などの把握、支払時のレジスターの使用状況(そもそもレジを打っているのかも含めて)確認することをいいます。客になりすまして、店内の様々な状況を把握して、これから始まる税務調査の検討材料にするのです。

お客できょろきょろしている人や何回もトイレに行っている人には注意をしましょう。トイレの中で、メモを取っているかもしれません。

⑵臨場調査

①調査着手

飲食店の調査は、ほとんどの場合、調査官が一人で調査することはありません。最低二人、事案の規模や内容によっては、税務署の調査部門担当だけでなく、他の調査部門の調査官が投入される場合があります。すなわち、3人以上で調査を行うのです。

また、国税局の課税部資料調査課の調査の場合には、総括主査、主査、実査官が出張ってきて税務署の調査官とともに調査を行います(このような場合は国税局が調査を主導し、いわゆる「リョウチョウ事案」というやつです。)。もちろん、無予告での調査着手ですね。

②現況調査

現況調査とは、文字通り、現在の状況を確認する調査です。納税義務者が保有するレジスター、パソコン、机、キャビネット、ロッカーなどにおいて、調査官自らが保存場所で中身を確認する訳です。

これらの中には納税者が隠している真実の売上データや伝票、真実の仕入に係る納品書や簿外としている口座の通帳があるやもしれないということで、まず、中身を確保してから内容はじっくりと吟味するのです。

当然、その時には売上伝票、ジャーナルペーパーや売上日計表、現金出納帳の確保とともに現金監査を行います。現金監査は、調査着手時点の帳簿上の現金有高と実際の現金有高を確認して、不一致の有無を確認し、不一致の場合には、なぜ、実際の現金が多いのか、又は少ないのか、その理由を徹底的に追及することになります。

売上以外の項目では、人件費に関する書類・データの確保が優先されます。飲食業では、たくさんの人が雇用されたり、退職したりと人の出入りが頻繁なことから架空の人件費を計上するケースをと調査の主眼としています。

税務署としては、現状の人事データや書類を確保することで架空人件費の有無や源泉所得税の徴収漏れ(例えば、一人の人間を二人いるようにして、源泉所得税を免れるなどがあります。)の有無を検討できる訳です。

また、飲食業では、売上だけを脱漏すると売上総利益率(いわゆる粗利率です。)が極端に低くなるため、材料仕入れも除外するケース(いわゆる両落ち:売上と仕入の方をとす、計上しない。)もあるため、計上されている仕入れ先以外の仕入先からの納品書・請求書の類も調査官は探しています。

⑶帳簿調査

ひととおりの現況調査が終了したら、帳簿調査に移行します。これは、無予告調査の日ではなく、後日、今度は臨場する日にちを決めて、帳票類を納税義務者に揃えさせて行われます。

通常の税務調査ですので、ここでは説明を割愛させていただきます。

⑷推計課税

売上等に係る帳票類やデータなどが何も把握できず、納税義務者からも何ら提出がない場合に税務署はどのような調査手法をとるのでしょうか?

「推計課税」という方法があります。売上金額や所得金額を推計計算によって認定する訳です。

推計計算の典型例としては、売上等に比例して消費される仕入・経費等を把握し、その仕入・経費等の使用量・金額などから推定売上金額を合理的に算定した後、この推定売上金額に同規模類似業者の売上金額に対する平均的所得率を乗じて、推計の所得金額を算定するなどがあります。まあ、仕入や経費から売上を推計して、推計売上に類似同業者の所得率を乗じて推計の所得金額を計算するということですね。

しかしながら、推計課税を行うには、「内国法人(居住者)が対象であること」「更正もしくは決定する場合にのみ課税できる」「青色申告者には推計課税はできない」という要件をクリアしなければいけません。よって、青色申告者に対して推計課税を行う場合には、必ず、青色申告の承認取消を行う必要があります。

法人税法第131条(推計による更正又は決定)では

”「税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人(各連結事業年度の連結所得に対する法人税につき更正又は決定をする場合にあっては、連結子法人を含む。)の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準(更正をする場合にあっては、課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額)を推計して、これをすることができる。」”

引用:e-GOV法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034

としており、財産や債務の増減による推計計算の方法も認めています。

税務調査の場面で、「御社は、同業他社に比べて粗利率が低い。平均にするには○○○○万円の修正申告をする必要がある。」などといって、乱暴な修正申告書の勧奨を行う調査官が極まれにいると聞いたことがありますが、これは推計課税でも何でもありませんので、くれぐれも、ご注意ください。

税務署の調査官が納税者に対して、修正申告書の提出を勧奨できるのは、修正すべき事項に係る証拠書類がある場合ですので、このような戯言に応ずる必要全くはありません。

話しを無予告調査に戻しましょう。無予告での税務調査の際に帳票類や取引データなどが全くない、もしくは、ほとんど残っていないなどといった場合には、青色申告の承認取消が行われる恐れは大ですので、くれぐれも、日頃の記帳と書類整理が大切だと言えます。

まとめ

無予告の税務調査だからといって、何も恐れる必要はありませんが、日常的に正確な記帳がされていれば、「さぁ、どうぞと」と確認させればいいだけです。税務署が生の書類を見たいのは分からないわけではありませんが、納税者にも、その日の都合というものがあります。突然、税務署が入ってきたら、まずは税務調査に強い税理士にご連絡ください。

税務署には、今日のご予定を伝えて、税務調査を拒否する訳ではない旨、後日にして欲しい旨、そして、税理士に電話してください。

経営のお役立ち情報を配信中!

G.S.ブレインズグループでは、皆様の経営に役立つ情報を定期的に配信しております。
最新情報は登録無料のメールマガジンでお知らせいたします。

免責事項について
当記事の掲載内容に関しては、細心の注意を払っておりますが、その情報の正確性・完全性・最新性を保証するものではございません。
また、ご覧いただいている方に対して法的アドバイスを提供するものではありません。
法改正等により記事投稿時点とは異なる法施行状況になっている場合がございます。法令または公的機関による情報等をご参照のうえ、ご自身の判断と責任のもとにご利用ください。
当社は予告なしに当社ウェブサイトに掲載されている情報を変更・削除等を行う場合があります。
掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
中山正幸

お役立ち情報を発信していきます

中山正幸

G.S.ブレインズ税理士法人 顧問

お気軽にお問い合わせ・
ご相談ください

無料相談 経営のお悩みなど、まずはお気軽にご相談ください。
弊社スタッフがお客様の状況に最適なサービスをご提供いたします。

03-6417-9627

営業時間 9:30〜17:30(土日祝を除く)

HPを見てお電話した旨をお伝えください

くろじになる