2025年7月2日、東京高裁は試し勤務の執行役員に対する最低賃金での試し出勤命令に合理性を認めた一方、管理監督者性は認めず、会社に未払の割増賃金約100万円及び同額の付加金の支払を命じました。

１審の静岡地裁は、原告の執行役員側の請求を全て棄却していましたが、地裁と高裁で判断が分かれたポイントはどこにあったのでしょうか？

本件は、医薬品容器の製造開発などを行う会社に執行役員医薬品担当部長として年収約813万円で雇用された社員がメンタル疾患等で休職し、会社から復職に向けた試し出勤を勤務地である静岡県の最低賃金の時給913円（当時）で命じられたことに端を発します。

この社員は会社の試し出勤命令を拒否し、休職期間満了で自然退職となりました。

その後、この社員は会社の試し出勤に関する対応は不法行為であり、自身は管理監督者には該当せず、未払の割増賃金が存在するとして会社を訴えたものです。

最低賃金での試し出勤命令については、地裁は休職期間であるため雇用契約と同じ賃金請求権は発生しないとし、高裁も最低賃金での試し出勤命令には合理性があるとして、最低賃金による試し出勤命令については問題ないのと共通の判断をしました。

この執行役員の管理監督者性について、地裁は職位が執行役員と高位で部門全体を統括する立場で高額な報酬を得ており、自身の労働時間にも広い裁量があったとして、管理監督者性を認めました。

しかし、高裁は執行役員が労務管理の指揮監督に関する役割や権限を有していなかったとして管理監督者性を否定し、割増賃金に加えて懲罰的要素をもつ付加金の支払も認めました。

裁判所に管理監督者性が認められるには、労務管理に対する指揮監督の役割や権限を与える必要がありそうです。