経営に役立つコラム

Column

2023.01.26

組織再編を利用した節税効果

今回は、小売事業を行う会社と不動産賃貸業を営む会社を経営されている社長のお悩みを元に節税についてお伝えいたします。

【社長からのご質問】

私(以下T社長)は小売事業を行うS社と、賃貸建物1棟を保有して不動産賃貸業を営むE社を経営しています。

S社は創業間もない頃に生じた欠損金が今期末にも700万円残る見込みです。

一方、E社は現在、保有不動産が値上がりしており、売却してしまおうと考えています。

既に買手を見つけており、売却により2,000万円の利益を確保できそうですが、何か節税することはできないでしょうか?

【現状】

<S社>

小売業

R1.8月決算

R1.8月決算時に欠損金残700万円の見込み

株主 T社長が設立から100%保有

 

<E社>

不動産賃貸業

R1.8月決算

欠損金なし

株主 T社長が設立から100%保有

 

不動産は帳簿価額3,000万円、売却価格は5,000万円、2,000万円の利益見込み

金融機関からの借入金残 4,600万円

【T社長のお悩み】

E社は不動産の取得のための借入金がまだ4,600万円残っています。

5,000万円で売却し利益が2,000万円出ても納税で30%(税額600万円)納めてしまうと、手残りが4,400万円となり借入金全額の返済額には不足します。

返済するための不足額200万円を手持ち資金から用意することはできますが、小売業の拡販のため手持ち資金の利用は避けたいと考えていらっしゃいました。

【当社のご提案】

E社S社を吸収合併して、

E社の利益2,000万円とS社の欠損金700万円を

相殺して申告することをご提案しました。

【税務のポイント!】

一定の要件を満たす合併の場合、消滅する企業の欠損金を引き継いで、

利益と相殺することができます。

手続きもおよそ2~3か月で完了することができます。

【解説】

S社は小売業のため販売先は固定化されておらず、重要な契約は仕入元との契約になりますが、どちらの会社もT社長が経営されているので、合併後に仕入れをE社で行うことは抵抗がありませんでした。よって、S社E社が合併しても小売業の営業体制は問題がありません。

入居している店舗オーナーも了承してくれています。

そのため、対外的な障壁はE社の不動産購入の借入金です。
もともと合併できていれば問題ないのですが、欠損が残るS社との合併は金融機関から反対をされると見込まれています(T社長はE社の金融機関にS社の決算書は提出していません)。


しかし、今回実際に不動産を売却して繰上げ返済をしてしまえば、この問題も解決します。

しかし2,000万円の利益では納税が600万円程度見込まれるため、

5,000万円-600万円=4,400万円となり、借入金4,600万円を返済することができません。

そこで、E社は不動産売却後、借入金を返済。
手残り400万円となりましたが、S社をR1年8月1日に吸収合併しました。


そのため、E社S社の欠損金700万円を利用し、


2,000万円-700万円=1,300万円に対しておよそ30%の税率で390万円の納税となり、繰上げ返済後の残資金400万円から納税を済ますことができました。

通常、合併は存続する企業の期首で行うことが多いのですが、
今回、翌期首(R1年9月1日)に合併をすると、E社は2,000万円の利益で600万円を納税しなくてはなりません。

そこで、S社を期中に吸収してしまい、R1年8月決算でS社の欠損金を利用することができました。

今回は、どちらの会社も事業に必要な許認可がありませんでした。

また、従業員も少なく合併後の二つの会社の社風の違いも気にすることはなかったため、非常にスムーズに合併・節税することができました。

今回は欠損金を利用することができましたが、利用に制限がかかるケースがありますので、税務判断が必要です。ご注意ください。

※事例をわかりやすくするため、事例金額は実際とは異なり、消費税や仲介料、登記料なども記載を省略しております。

 

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木村行宏

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木村行宏

G.S.ブレインズ税理士法人 代表社員税理士

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