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2025.06.12

国際的な二重課税とその解決法

国際的な二重課税とその解決法
「海外で得た所得に税金がかかるのは当然。でも、どうして日本でも課税されるの?」
そんな疑問を感じたことはありませんか。国をまたいでビジネスをしたり、海外資産を保有したりする方にとって、「二重課税」はとても身近な問題です。たとえば、海外企業の株式配当を受け取った場合、その配当には現地で源泉所得税がかかります。ところが、日本でもその所得に対して課税されることがあるのです。「一体なぜ、こんなことが起きるのだろう?」と不思議に思う方も多いはずです。
二重課税は、各国が持つ課税ルールの違いから生まれます。そのまま放置してしまうと、税負担が過重になるだけでなく、ビジネス展開の妨げになることも。今回のコラムでは、二重課税が発生する背景と、どんな具体的なケースで起きるのかを見ていきます。

二重課税の定義

二重課税とは、同一の所得に対して複数の国が課税を行う状況を指します。
例えば、ある個人や会社が日本と米国で収益(所得)を稼得した場合、その所得が日米両国で課税対象となります。各国が異なる国内法を持ち、その課税制度を施行した結果、両国で税務申告を行う必要が生じ、二重課税が発生することになります。

二重課税はなぜ発生するのか

二重課税が発生する要因は次のようなものです。

我が国の税法は、内国法人(日本に本店所在地がある法人)若しくは日本の居住者に対して全世界所得課税という国内外で稼得したすべての所得に対して課税する方法を採用しています。内国法人や居住者は、日本に居住しており、その居住地で全世界の所得に対する課税権を行使されているといえます。この方法は、おのずと二重課税が発生することになります。

片や、海外には、その国の会社やその国の居住者がその国で稼得した所得のみに課税する方法を採用している国が存在します。この方法によると課税の範囲は会社や居住者がその居住地国で稼得した所得のみということになりますので、二重課税が発生する余地がないことになります。

二重課税の弊害

二重課税がもたらす弊害には次のようなことが考えられます。

⑴財務的負担の増加

所得が二重に課税されることで、最終的な税負担が大幅に増えることになります。

⑵ビジネスの停滞

企業の収益が減少し、国際的な投資や取引を行うかどうかの判断の時に躊躇する要因となる恐れがあります。

⑶不公平感の発生

納税者が同じ所得に対して二重の税を支払うことは、税の公平性を損なう恐れがあります。

特に国際的なビジネス展開を行う企業や、海外で収益を得る個人にとっては、この問題を解決することは重要事項であると言えます。

二重課税の事例

国際税務の分野では、二重課税がさまざまな形で発生するケースがありますが、その典型的な事例をご紹介します。

①外国企業の株式を保有する投資家

日本に居住する個人が海外企業の株式に投資した場合、その株式から発生する配当所得は海外で配当所得に対する源泉所得税が課税されるとともに、日本でも所得税が課税され二重課税が発生することになります。

これは、配当だけでなく、銀行の預金利息についても同様のことがいえるほか、海外で源泉所得税が課税されるものについては、同様のことがいえることになります。

②法人所得に関する二重課税

日本の会社が海外の子会社に何らかの役務の提供を行った場合、現地でもその経済活動に対して法人所得税(例えば、中国の企業所得税)を課税される場合があります。

③不動産所得の二重課税

日本居住者が海外に不動産を保有し、その不動産収入を得ている場合、現地で不動産収入に対して課税されるだけでなく、日本でも課税対象となることになります。

④国外に移住している日本人

日本の年金の受給資格のある者が海外に移住し、年金を海外で受取ると、移住先の税法にもよりますが、多くの場合、日本で源泉所得税を徴収された上で、現地でも課税されるケースがあります。

二重課税の排除方法

二重課税を排除する方法はいくつかありますが、主な方法は次の通りです。

(1)外国税額控除制度の利用

外国税額控除は、外国で支払った所得税などを日本の申告の際に外国税額控除として算出された税額から控除する方法になります。

例としては、日本に居住する個人が保有する米国の株式から受取った配当を税務申告する際に米国で源泉徴収された税を日本の所得税から控除するといったことが考えられます。

このように外国で納付した税金を日本の税金から差引くことで二重課税を防止する訳です。

(2)租税条約の適用

租税条約を正式名称で言うと「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と〇〇〇国との間の条約」となります。長い名称ですが、二重課税の排除と脱税を防止するために二か国間で締結されるものになります。

この租税条約には、免税措置と軽減措置が盛り込まれており、特に免税措置とされている所得について二国間でやりとりがあった場合、その国の国内法で源泉徴収制度があっても源泉徴収が免除されることになります。

ただし、この場合には、租税条約の適用をする旨の届出書を税務当局に提出することが必須(提出がないと免税になりません。)ですので、注意が必要となります。

このように租税条約の適用により二重課税を防止する訳です。

我が国の外国税額控除の基本的なポイント

外国税額控除とは、外国で課された税金を自国の税額から差し引くことができる制度です。二重課税を防ぐための代表的な手段の一つであり、国際税務において重要な役割を果たしているといえます。

税額控除を行うには、いくつかポイントとなる事項があります。

(1)日本の居住者であること

日本の居住者であることが求められます。そして、日本の居住者である期間に国外での所得を稼得し、現地で所得税等を納付していることが必要です。

海外に居住しており、その間に所得税等を納付しているとしても、その後に帰国して日本の居住者に戻ったとしても、非居住者の期間の外国税額については外国税額控除を受けることができません。

(2)確定申告を行うこと

日本と海外できちんと納税を行っている場合でも、自動的税額控除が行われる訳ではありません。次の書類を添付して確定申告をする必要があります。

【必要書類】

・外国税額控除に関する明細書

・外国所得税を課されたことを証明する書類

・国外所得総額の計算に関する明細書

・各年の控除限度額や納付した外国所得税を記載した書類(繰越控除を受ける場合)

(3)税額控除の対象となる税金

外国で支払った所得税が対象となりますが、付加価値税、消費税といった間接税は対象外となります。対象となる税とは次の通りです。

【外国税額控除の対象となる税】

・外国の法令により課される、日本の所得税に相当する税

・外国の法令に基づいて、その国またはその国の地方公共団体により課せられる税

・個人の所得を課税標準(税金の計算時の算定基準)として課される税

・以下に該当しない税

 ・納税義務者が納税猶予を決められる

 ・税の全額や一部の還付を請求できる

 ・複数の税率の中から合意によって税率が決められた税の一部

 ・付帯して課される加算税や延滞税等

(4)税額控除額の制限

所得税(税額控除前税額)税額を上限として控除が適用されることになりますので、日本での所得税額を超える税額部分は控除できません。

まとめ

外国税額控除のイメージはお分かりいただけましたでしょうか?
外国税額控除の計算は、国税である所得税からの控除だけでなく、都道府県民税や市区町村税から控除をする場合がありますので、複雑なものとなっています。該当する外国税額がある場合には、必ず、専門家(税理士)にご相談ください。

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中山正幸

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中山正幸

G.S.ブレインズ税理士法人 顧問

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