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2025.12.11

消費税をいつまで「消費税」と呼ぶのか?

消費税をいつまで「消費税」と呼ぶのか?
買い物のたびに支払う消費税。しかし、その扱われ方は、導入当初の説明と今の制度運用とで異なる面が出てきています。預り金とされていた時期があった一方、裁判や国会答弁ではその前提が否定され、制度の根拠にも影響が及んでいます。長い歴史の中で説明が変化してきた背景をたどると、名称そのものが誤解を生んでいるのでは、という問題も見えてきます。
私たちが日々向き合う税がどのような仕組みを持ち、どのような経緯を経て今の形になったのかを眺めてみると、制度の捉え方が少し変わるかもしれません。

はじめに

国税庁が所管する税務大学校で使用される教科書(国税庁では税大講本と呼びます。)の消費税法では、直接税と間接税の分類において消費税は、「物品の販売やサービスの提供を業とする者を納税義務者としているが、その物品やサービスの取引価格に上乗せされて、これらを購入する消費者に税負担が転嫁されることを予定していることから、間接税に属する租税となる。」としており、消費税は間接税だという説明を国税庁・財務省はしています。

かつて消費税の導入時(平成元年・1989年4月1日、当初の税率は3%。)には、「間接税となる消費税は、消費者がその税金を負担し、事業者はその預かった税金を納税している。」という説明が国税庁・財務省から行われました。

なぜ消費税の説明について、導入当初と現在では消費税の説明が違っているのでしょうか。

昔、国税庁が作成した消費税のポスターは、故いかりや長介氏を採用し、タイトルを「マナーだよ全員納税。」とした上で、サブタイトルに「おれが支払った消費税。あれって預り金なんだぜ。」と預り金であることを強調していました。

預り金と言われた消費税は、いつの間にか「預り金的性格を有する税」といわれることになったのか、そのきっかけとなった裁判があります。

消費税は預り金ではないという判決

平成2年3月26日の東京地方裁判所の判決と同年11月26日の大阪地方裁判所の判決は、「消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない」「徴収義務者が事業者であるとは解されない。したがって、消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者との関係で負うものではない。」といった内容でした。

この判決は何を意味するのかというと、消費税はあくまで物等の価格の一部であり、預り金ではないと判示しているということになります。

国会答弁でも消費税は預り金ではないと答弁

平成5年・2023年2月10日の衆議院・内閣委員会の場で自民党の財務大臣政務官が質問者の質問に対し、「預かり金的な性格でありまして預かり税ではありませんという答弁を過去ずっと財務省はさせて頂いております。」と答弁した後、質問者から「「預り税ではない」ということでよろしいですね。」という追加質問に対し「その認識で結構でございます。」と明確に消費税は預り金ではないと答弁しています。

これらの国会でのやり取りは、質問者がインボイス制度の導入根拠を政府に対して問い質す場において行われています。政府はインボイス制度の導入根拠の一つに挙げていたのが益税の適正な徴収に関するもので、政府は、「(インボイス制度導入以前の)これまでの制度では、消費税の免税業者と取引した場合、買い手である課税事業者は、免税事業者が受け取った消費税分を含めて仕入税額控除を行うことができました。これにより、免税事業者が受け取った消費税が国に納められず、事業者の手元に残る「益税」が発生する」だから「(インボイス制度では)仕入税額控除の要件として適格請求書の保存が必要となり、免税事業者からの仕入れ分は原則として控除できなくなります。これにより、免税事業者が受け取る消費税分を適切に徴収することが目的とされている。」という説明を行ってきました。

しかし、国会の場で、消費税は預り金ではないと答弁(=益税は(存在し)ないと答弁したことと同じです。)したことにより、インボイス制度の導入根拠の一つを自ら否定するような答弁を行ったことになります。

そろそろ名称を変えてはどうか

確かに消費税が間接税であるという根拠はあやしくなり、預り金であるという根拠も否定されています。

しかし、現に消費税は会社や個人事業者に課税される税金である事実は変わりません。
そもそも、消費税という名称が一般的に誤解を与える根源ではないかと感じています。まるで消費者が負担するから「消費税」、消費することに課税するから「消費税」とまことしやかに言われていますが、消費税の導入準備をしている頃の財務省では当初、消費税ではなく「第二法人税」という言い方をしていました。

簡略化して言いますと、法人税は「収益-原価・費用=所得金額」という課税標準(税額を計算する際に、税率をかけるもとになる金額や数量のこと)の計算をしますが、消費税は「収益-給与等の人件費を除く原価・費用=所得金額」によって課税標準を計算するだけで、驚くほど、その仕組みは法人税に似ています。

いわば、消費ではなく、取引に対して課税する訳ですから取引税でもいいのではないかと思います。このほうが税の性格を端的に表しているのではないでしょうか。

諸外国と整合性を採るならば、付加価値税(Value Added Tax、VAT)でもいいのではないと考えます。付加価値税は、生産から最終消費に至るまでの各取引段階で、商品やサービスに付加された価値に対して課税される間接税ですので、まさに我が国の消費税です。

なぜか消費税は滞納が多い税と言われています。令和6年度の滞納状況を見ますと9,276億円の滞納税額のうち、約4割3,680億円が消費税になっています。

なんとなく、国税庁・財務省が説明する「購入する消費者に税負担が転嫁される」という意識が強く働いて、自分自身が負担するという意識が薄いことが原因ではないかともいわれています。

まさに、消費税は自分自身が負担者だという意識を持ち、法人税と同様の税なんだと思うと軽く扱うことはできませんよね。

そろそろ税の本質に基づいた名称に変更してはどうかと考える次第です。

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中山正幸

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中山正幸

G.S.ブレインズ税理士法人 顧問

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