-経営には波があり、危機的な状況を迎えた時にどのように乗り越えたか?
社長と副社長がそれぞれの役割の中で、会社を成長させてこられたのですね。
兄(社長)は営業力を武器に事業を伸ばしていく。一方で私は組織力を高め、いかに良い人材を集めて適切な教育を提供し、社員とともに会社を伸ばしていくか。そうした役割分担でやってきました。
私が決意して入社した2014年当時は社員数40名ほどでしたが、現在は70名にまで増えています。ただ、今後の事業拡大を考えると、さらに仲間を増やしていかなければなりません。だからこそ、私自身が今の仕事をどんどん他の社員へ委譲し、自分は新たな役割を担っていかないと、会社はさらなる成長を遂げられないと考えています。
-自社の強みである航空・宇宙業界向けの高度な技術力をさらに維持・発展させていくための取り組みについてお聞かせください。
一番大切なのは、お客様のご要望に丁寧に応え続けることです。お客様も常に変化する外部環境と戦っておられますから、時には初めて耳にするような、非常に難易度の高いご要望をいただくこともあります。現場が常に手一杯な状況の中で、そうした新たな課題に真摯に向き合えるかどうか。社員に対して「なぜこれに挑戦するのか」という“やる意味”を見出してもらうことが、すごく大事になってきます。
そこで数年前から、私たちは理念経営・目的経営である「パーパス経営」に取り組み、“目的”を土台に置いた経営へシフトしました。
多摩冶金の本質的な仕事、それは“世界に「人々の安全と安心」を届ける”ことです。私たちは、世の中に安全と安心を届けるための「手段」の一つとして熱処理を行っている。安全・安心づくりに真摯に取り組んでいるからこそ、お客様や社会から対価をいただき、それを引き継ぎながら100年企業、そして企業の永続化を目指すことができると考えています。
ですから、採用面接でもテクニックやスキル以上に「どういう想いや意図で面接に来てくれたのか」「どんな価値観を大切にしているのか」「自分の人生に働きがいを求めているか」というところを私たちは重視しています。
私自身、社員との会話の中でふと「目的」を抜かしてしまうことがあります。社員の目の前にあるのは日々の目標や生産性ですから、どうしても目先の達成に向けて走り回ってしまいますよね。
だからこそ、「私たちは、なんでこれをやっているんだっけ?」と、社員を本来の「目的」へと引き戻す役割が重要になります。「私たちは、世界に「人々の安全と安心」を届けるためにやっているんだよね」と、常に意識して言葉をかけるようにしています。
社員の一人ひとりが「自分の働きがいはこれだ」と実感し、その軸と多摩冶金というフィールドを重ね合わせてもらいたい。そう思える社員をいかに増やしていけるかで、社内の雰囲気や組織の力強さは大きく変わっていくと信じています。
-「会社の目的」を意識する機会は日常では多くないかもしれませんが、時に立ち止まり、自分自身と会社の目的を振り返って「目の前にある事にどう向き合うべきか?」を考えることは本当に大切ですね。
会社にとっても社員個人の人生にとっても、「目的の力」は本当に大きな原動力になります。
目的の力について最近心に残っているのは、Facebook(現Meta)創業者のマーク・ザッカーバーグがハーバード大学の卒業式で述べた言葉です。「目的とは、ある大いなる何かのために自分が存在し、その一部であること」「その大いなる何かを果たしていくために、自分はその役割を担うのだ」という概念です。「誰のために、何のために、なぜやるのか」という答えこそが目的であり、それがないと人間は本質的に動けないのだと思います。
日本の多くの企業では、KPIやKGIといった指標を使って利益や生産性を追求しますが、それらが「お金」という単一の指標になりがちです。しかし、目的がお金よりももっと深い場所にあるとしたらどうでしょう。
私たちの目的は、“世界に「人々の安全と安心」を届ける”ことです。だからこそ「そのために資金も稼ぐ必要があるけれど、目的はそれだけではないよね」という本質が見えてきます。目的の力を原動力にして、社員一人ひとりが内発的に行動できることこそが何より大切なんです。
こうした考え方を少しずつ社内に浸透させていった結果、少しずつ成果となって表れ始めました。採用面接で「応募者がどんな価値観を持っているか」「その価値観が多摩冶金に合っているか」をしっかりと見極めるノウハウが蓄積され、結果として離職率の大幅な低下につながっています。確実に新しいフェーズに入ってきたと感じていますね。
ちなみに売上目標の立て方にしても、ベースにあるのは「社員に幸せになってほしい」という想いです。そのために「人件費を年5%上げたい」「そのための必要経費や不測の事態に備えた蓄えが必要だ」と逆算して算出した数値を「目標売上」として社員に伝えています。
-南工場を新設されたとのことですが、今後の事業展開についてお聞かせ下さい。
今後の展望としては、ひたすら“世界に「人々の安全と安心」を届ける”という目的をどう具現化していくかにつき発揮していきます。多摩冶金の価値や、当社だからこそ提供できる安全・安心の届け方を見つけ出し、航空・宇宙産業の柱をより強固なものに育てていきます。
民間航空機の需要は今後さらに伸びていくと予想されますが、一方でパンデミックや国際情勢の影響によって突然ブレーキがかかるリスクもあります。そのため、経営の安定化を図る観点からも「防衛分野」の強化にも注力していく考えです。
防衛領域に関しても、“世界に「人々の安全と安心」を届ける”という私たちの目的に直結する大切な仕事です。この分野では高度な特殊工程に加え、非常に高い機密性が求められますので、防衛ならではの厳格な組織体制を新たに再構築して臨みたいと考えています。